新潟地方裁判所 昭和40年(ワ)205号 判決 1968年9月27日
原告 笠原貞造
被告 荒木清
<ほか一名>
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「被告荒木清は原告に対し金五万六、四〇〇円、被告長谷川キミは原告に対し金七万五、九〇〇円と右各金員に対する訴状送達の翌日以降完済まで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。
一、被告荒木清の母イツと被告長谷川キミは、昭和二三年一一月九日、別紙目録記載の土地を棒吉右エ門よりそれぞれ買受け、代金の支払を了したにも拘わらず所有権移転登記手続の履行を拒まれていた。
二、原告は新潟県弁護士会所属の弁護士であるところ、昭和三一年六月、相田平蔵を介し荒木イツ及び被告長谷川キミから、別紙目録記載の土地の所有権移転登記手続請求の訴訟委任を受けた。
原告は、同年中、右両名の訴訟代理人として棒吉右エ門を被告とする訴を当庁に提起した。
なお、荒木イツは、昭和三五年四月一五日に死亡し、被告荒木清とその弟三名が相続した。
三、ところで、被告荒木清及び被告長谷川キミは、前記訴訟の繋属中、原告に無断で棒吉右エ門から改めて別紙目録記載の土地をそれぞれ買受けて所有権移転登記手続を完了させた。
四、新潟県弁護士会々則第一四〇条には「会員がその責に帰することができない事由によって事件が終了し又委任関係が消滅したときは、委任の目的成功とみなし約定報酬金額を請求することができる」と定めてある。
従って、前項で述べた場合は訴訟の成功とみなされ、原告は右の会則条項により当然被告らに対し謝金の請求ができるのである。
五、よって、被告らに対し、それぞれ別紙目録記載の土地価格の二割に相当する謝金(但し、被告長谷川は本訴提起後の昭和四〇年六月二六日に金九、〇〇〇円を支払ったので同金額を控除した残額について請求する)の支払を求めるものである。
被告荒木清は、適式な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、かつ、答弁書その他の準備書面も提出していない。
被告長谷川キミは、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
一、請求原因第一項の事実は認める。第二項の事実につき原告に訴訟委任をしたことは否認する。第三項の事実につき被告長谷川が棒から改めて別紙目録記載の土地を買受けて所有権移転登記手続を経由したことは認める。第四項の事実は知らない。第五項中原告に金九、〇〇〇円を支払ったことがあるが、それは支払義務のないものを誤って支払ったのである。
二、別紙目録記載の土地の売買、登記手続関係については、当初相田平蔵が世話役になっていたが、同人が死亡した後は明道剛平が世話役であった。
被告長谷川は、本件土地について棒からの所有権移転登記手続終了後、明道剛平に所有権移転登記手続請求事件に原告として参加しない旨を伝え、その頃被告長谷川の訴は取下げた。
理由
原告は、請求原因第三項のような場合、新潟県弁護士会々則第一四〇条により、当然に被告らに対し謝金の請求ができるというのである。
原告のいう会則の条項は、弁護士法第三三条第二項八号により定められたものであるが、それは弁護士の報酬に関する標準を示すものであって、当然には当事者を拘束する効力をもつものでなく、従って、その規定自体から当然に報酬請求権が生ずるものではない。
してみれば、原告の被告両名に対する本訴請求は、いずれも右の点で理由がないからこれを棄却し、訴訟費用は敗訴の原告に負担させることとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 正木宏)
<以下省略>